蕎麦隠語

あおい【葵】
そばの女房言葉。ソバの実の三稜はミカド(三角)とミカド(帝)に通じるので、京都の御所では忌み言葉とされた。そこで、ソバの葉と葵(アオイ)の葉が似ているところから、そばのことをアオイといった。

いかけ【鋳掛】
二人以上の注文の品を、一緒に出す時の麺類店の通し言葉。文化(1804~1818)末年、大阪に夫婦連れで土瓶の焼きつぎに歩いた鋳掛屋があって評判になり、三代目中村歌右衛門がこれをモデル所作事を演じたことから、夫婦一緒に歩くことを「鋳掛け」と言った。

いかだ【筏】
こねが軟らかいため、包丁で切ってあっても、茹で上げたときめん同士がほぐれず、筏のようにくっついた状態を言う。

いた【板】
①板前または板元の略。料理人。
②板かまぼこの略。イタまたはイタツケとも。
③そばが切れていないめん帯の状態のこと。

うすずみ【薄墨】
女房言葉で「そばがき」の事。その色合いから出た表現と思われる。

おいうち【追い打ち】
閉店間際にそばが足りなくなり、急場をしのぐ量のそばを打つこと。追いかけとも。

おいかけ【追い掛け】
追加すること。

おか【岡】
通し言葉で、岡にあがっているということから「岡で天ぷら」と通されると、天ぷらだけ別の皿に盛って出される。

おしな【御雛】
まだ一人前にならない見習い中の者。
見習いが空腹をいやすのに飲む蕎麦湯が「おしな湯」。
雛を「しな」と発音するのは、江戸っ子の言い方。

おしなゆ【御雛湯】
そば湯のこと。
職人はお茶を飲めるが、まだ修業中のお雛(小僧)はそば湯に辛汁を数滴落として飲むところからきた別称。

おひねり【御捻り】
昔は「もりそば」は二枚と決まっていたが、それをあえて一枚だけの注文を「おひねり」といった。そば店では開店して最初の客が一枚だけの注文の場合、これを特にきらった。包み紙の上部をひねった賽銭または祝儀は、一つしか出さないところから。

かかりもの【掛り物】
出前のとき、同じ方向の他の分があれば、それも併せて持ち出す。その分の物をいう。

かわり【代り・替り】
そば職人が定雇いの代わり(替わり)に臨時に雇われること。

きたずめ【北詰】
そばのこと。
かって大阪堂島橋の北詰で相場が立ったので、相場を「そば」にもじったもの。
シマ(島)とも。

きん【斤】
蕎麦屋の通し言葉。そばの量を多くして出すこと。「きんで願います」と使う。反対語は「さくら」「きれい」。

ごつごう【御都合】
種物の下ごしらえが出来た中台が、釜前(ゆで方)にそば(うどん)を振る(温める)ことを促す言葉。

ごないしょ【御内所】
内輪の注文の場合に使う。例えば、帳場に問屋の番頭さんが来て、そばを食べさせようと思い、そばの量を少々多くしてやりたかったら「御内所、もり一枚、きんで願います」と通す。

さがり【下がり】
職人が不始末をのため解雇されること。

さげなわ【下げ縄】江戸は「そば」、上方は「うどん」のことを指す言葉。(大工用語)
略してナワ(そば)ともいう。(咄家用語)

さんかく【三角】ソバのこと。
ソバの実は三角だから。略して「カド」ともいう。夏角、秋角という。

さくら【桜】
そばの量を少な目に盛って出すこと。
「おかわり、台はさくらで願います」となる。きれい【綺麗】とも。


しるかん【汁看】汁がなくなったので看板(終業)にすること。そば店では汁は時間をかけて入念に作るので、おいそれと間に合わない。

せきまえ
通し言葉で、急ぎ注文のこと。

そばる【蕎麦る】
そば一杯で辛抱する。昭和20年頃、学生の間ではやった言葉。

だき【抱】
エビの天ぷらの二本揚げのこと。抱き合った形で揚げる意。これが三本になると「三本つまみ」という。

つきなみ【月並】
かって職人あるいは雇主が寄子部屋(現在の調理師紹介所)に支払う月々の手数料のこと。また、雇用の有無にかかわらず納める手数料をステツキナミといった。

ばく【泊】
前日に仕込んだもの。「とまり」ともいう。「ばくそば」、「ばく汁」などと使う。

ひきばこ【引き箱】出前になりすまして、けんどん箱を下げて代金を詐取すること。それを防ぐため、昔は出前には屋号入りの半纏を着せ、夜は提燈を持たせた。薬味のかけ紙にも「ひるははんてん、夜はちょうちん」と書いてあった。

みかど【三稜】ソバの実のこと。あおい(葵)




つく
一個をさす。
「天つき三杯の巻き」は、天ぷらそば一杯、花巻二杯の意味。あとからいわれる出物の数は全体の数より常に一個だけ少なく計算する。

まじり
二個を指す。
「かけまじり七枚もり」は、かけそば二杯、もりそば五杯計七個の意味。枚はもり、ざるの単位、杯は種物の単位となる。


かち 勝ち 二種類の出物が五個以上の奇数で注文されたとき、多い方を先にして勝ちをつける。「天ぷら勝って七杯かも」は、天ぷらそば四杯、鴨南蛮三杯の意味。偶数のときは「と」が使われ「とじとまきで四杯」は、玉子とじ、花巻き各二杯の意味。


まく
出物が三種類以上にわたる場合は「まくで・・・」と続け、一緒の客だから同時に出してほしいと言う意味を持つ。「おかめが勝って七杯てんぷら、まくで、うどんとそばかも四杯」は、おかめそば四杯、天ぷらそば三杯、うどんとそばの鴨南蛮各二杯の合計十一杯となる。まくで一緒に通しても二組の客からの注文で有れば「うどんかも二杯は離れです」といって、仕事場の都合で別に出してもよいことを知らせる。また、全部がうどんの場合は「総うどんで・・・」といって最後まで通してしまう。


だいがわり【台変わり】
あんかけ、かき玉などは本来うどんと決まっているが、そばで作るように注文があったとき「台変わりであんかけ一杯」と通す。また天ぷらなどそば台に決まっているものをうどんで出す場合は、必ず「うどんで」とことわる。


おかわり
一人の客で二杯の注文は「おかわりつきもり二枚」という。当然、付け汁の徳利は二汁となる。また新規の客は「お新規」または「本膳」という。「もり一枚お新規(本膳)」。

おつかみ【御掴み】
客が自分で商品を持ち帰るときに(特に一つの場合)に通す言葉。

おこえがかり【お声がかり】
酒の注文は「お燗つき」とか「御酒」と通すが、そばを出すのは酒が飲み終わって、客のお声がかかってからの意味。

どよかん【土用寒】
どよは「土用」かんは「寒」で「どよかんでもり二枚」は湯通ししたあつもりと冷たいかんもり各一枚のこと。熱いと冷たいを一緒にあらわした洒落た言葉。



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